エンドトキシンとは

敗血症患者の体内で起こっている炎症反応、凝固異常、免疫障害、微小循環障害などは、感染した微生物に由来する外因性の物質(PAMPs)あるいは侵襲に応答して細胞から産生される内因性の物質(DAMPs)により惹起されます。PAMPsの中でも、グラム陰性菌に由来する毒素であるエンドトキシンは、強力な炎症、臓器障害を引き起こし、敗血症の主要な原因物質の一つと考えられています。

エンドトキシンは、グラム陰性菌の外膜を構成するリポ多糖であり、リポポリサッカライド(LPS)とも呼ばれます。毒素としての活性は、リピドAと呼ばれる脂質部分にあります。

エンドトキシンは、免疫細胞などの表面に存在するToll Like Receptor 4(TLR4)に結合して細胞内にシグナルを伝え、炎症性サイトカインの産生などを介して強力な炎症反応を惹起します。健常者ボランティアへの少量のエンドトキシンの投与が、発熱、心拍数・呼吸数の増加、血圧の低下、炎症性サイトカインの濃度上昇などの症状を引き起こすこと1、また、敗血症患者の血中エンドトキシンレベルと患者の重症度、予後には高い相関があることが報告されています2

近年、エンドトキシンは、TLR4を介した細胞外からの作用だけでなく、細胞内からカスパーゼ/インフラマソームの活性化を介して炎症反応の惹起および細胞死をもたらすという新しい発見がありました3。例えば血管内皮細胞に取り込まれたエンドトキシンが、パイロトーシスと呼ばれる細胞死を誘導するということが報告されています4。エンドトキシンは、これまで考えられていた以上に様々な機序を介して、敗血症の病態発現に関与していると考えられます。

【用語解説】

  1. グラム陰性菌:グラム染色で染まらない細菌の一群です。グラム陰性菌の細胞壁は二層で薄く、外層はエンドトキシンなどのリポ多糖類を主成分とします。大腸菌・コレラ菌・淋菌・セラチア菌、インフルエンザ桿菌、髄膜炎菌、アシネトバクターなど、多くの種類の菌が存在します。
  2. Toll Like Receptor 4(TLR4):細胞表面に存在し、病原体に特徴的な分子を認識するToll様受容体の1つです。グラム陰性菌の外膜成分であるエンドトキシン(LPS)を認識して細胞内にシグナルを伝え、炎症反応を引き起こします。
  3. 炎症性サイトカイン:サイトカインは細胞から分泌されるタンパク質であり、細胞間相互作用に関与する生理活性物質の総称です。炎症性サイトカインは、炎症反応を引き起こす作用を持つ一群のサイトカインであり、代表的なものとして、TNF-α、IL-1-β、IL-6、IL-8などがあります。
  4. カスパーゼ/インフラマソーム:インフラマソームは、感染や組織損傷による炎症反応の際に、細胞内に作られるタンパク質複合体です。インフラマソームではタンパク分解酵素の一種であるカスパーゼ-1が活性化され、活性型カスパーゼ-1がインターロイキン-1などの炎症性サイトカインの分泌を誘導します。
エンドトキシンとは
  1. “Characterization of a model of systemic inflammation in humans in vivo elicited by continuous infusion of endotoxin” Sci Rep (2017) 7:40149
  2. “Relationship between Plasma Levels of Lipopolysaccharide (LPS) and LPS-Binding Protein in Patients with Severe Sepsis and Septic Shock” J Infect Dis (1999) 180:1584-9
  3. “Noncanonical inflammasome activation by intracellular LPS independent of TLR4.” Science (2013) 341:1246-9
  4. “Caspase-11-mediated endothelial pyroptosis underlies endotoxemia-induced lung injury.” J Clin Invest (2017) 127:4124-35